胸部大動脈瘤とは、身体の中で一番太い血管である胸の中の大動脈がなんらかの原因で膨らんだ状態をいいます。一般的には大動脈の太さ(直径)が正常の1.5倍を超えた場合を大動脈瘤といい、胸部大動脈の正常の太さはおよそ3cmと言われていますので、4.5cmを超えて膨らんだ場合を胸部大動脈瘤と呼びます。
大動脈瘤には、動脈の壁そのものは保たれているもの(真性大動脈瘤)と、動脈の壁の一部が裂けて壁が二重になって血管があたかも2本あるような状態になるもの(解離性大動脈瘤※1)がありますが、ここでは胸部真性大動脈瘤についてご紹介します。
真性大動脈瘤は、その形から壁の一部が膨らんで瘤になった場合(嚢状大動脈瘤;イラスト)と、大動脈の壁が全周にわたって膨らんだ場合(紡錘状大動脈瘤;イラスト)に分けられます。その他に、動脈の壁が完全に裂けてしまって通常なら大出血するところを周りの臓器によって押さえ込まれ、あたかも瘤のように見えるものもあります(仮性大動脈瘤)。
胸部大動脈瘤の原因としては動脈硬化が最も多く、その他に、感染症(梅毒など)、炎症を引き起こす病気(各種血管炎)、ケガ(交通事故など)や、生まれつき(遺伝性)血管の壁が弱い場合なども原因として知られています。仮性大動脈瘤はケガで生じることが多いとされています。大動脈瘤は、胸の大動脈(胸部大動脈瘤)だけではなく、お腹の大動脈(腹部大動脈瘤※2)にも起こります。
胸部大動脈瘤のおよそ60%は症状がないため、検査でたまたま発見されることも少なくありません。胸部大動脈瘤が大きくなって周囲の臓器を圧迫するようになると、声が嗄れ(反回神経麻痺)たり、飲み込みにくさ(食道圧迫)を感じることがあります。感染症によるもの、炎症を引き起こす病気によるものの場合には痛みを感じることもあります。動脈瘤が破裂すると、激烈な痛みが生じ、胸の中(胸腔内)へ出血しショックとなりますが、喀血(肺に破れた場合)や吐血(食道へ破れた場合)を引き起こすこともあります。
胸部レントゲン写真で胸部大動脈瘤が疑われることがありますが、これだけでは正確に診断することはできません。また超音波(エコー)検査で大動脈瘤の一部が見えることがありますが、この検査では胸の中の大動脈をすべて観察することはできません。
血管造影検査は、胸の中の大動脈をすべて検査できる信頼できる検査法ですが、一部危険を伴うことがあり、CT検査やMR検査が発達した現在では、特別な場合を除いて用いられることは少なくなってきました。一般的には、CT検査が最も簡便で信頼できる検査法として用いられています。
胸部大動脈瘤は、破裂すると生命にかかわる病気ですので、破裂を予防することが治療の目標になります。血圧が高い場合は、血圧を下げるお薬を服用していただきます。現在のところ動脈瘤を治すお薬はありませんので、破裂の可能性が高い場合、手術を行うことになります。
破裂しやすい大動脈瘤とは、①最も太い箇所が5.5cmを越えている、②半年で5mm以上拡大してきた、③形が嚢状である、のいずれかに当てはまるものといわれています。ただし、生まれつき血管の壁が弱い場合には4.5cmに達した段階で、また仮性大動脈瘤では発見された時点での手術が勧められます。
太くなった血管を人工血管に置き換える方法(外科手術)と、大動脈瘤の中に人工血管を入れて破裂を予防する方法(ステントグラフト治療)があります。外科手術では心臓を一時的に停止し、血液の流れをー部、一時的に停止させる必要があるため、多くの場合、人工心肺装置を用いて行われます。そのため、手術後に脳梗塞や脊髄麻痺(下半身麻痺)などの合併症を引き起こすリスクが避けられず、手術の死亡率は手術する血管の場所により1.2%~8.8%とされています。破裂が起こってからの緊急手術では、死亡率が19.4%~50%と非常に高くなります。
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