腹部大動脈瘤は、破裂してしまうと極めて死亡率が高い疾患で、病院に到達する前に亡くなる方も少なくなく、緊急手術を受けることができても、その手術死亡率(手術してから30日以内の死亡率)は、日本で17~20%(非破裂例の約25倍)、欧米では20~40%と報告されております。
一方、非破裂性腹部大動脈瘤手術においては、手術侵襲が少ないステントグラフト内挿術の選択が急速に増加し、2014年には従来の開腹術よりも多く適用されるようになっており、手術死亡率も前者の方が低いことが知られております。
そうした背景もあり、破裂性腹部大動脈瘤にもステントグラフト内挿術が適用されはじめ、2013年現在、破裂例の35%にまでステントグラフトが使用されるようになってきました。世界的にも同様に破裂例へのステントグラフトの使用が増加してきております。
しかし、ステントグラフト内挿術と開腹手術の成績を比較するためのデータが不足しており、ステントグラフト内挿術を適用することによって破裂性腹部大動脈瘤の救命率が向上することが期待されている一方で、どのような症例にステントグラフトを用いると良いのか、どのような症例なら従来の開腹手術を選択すべきなのか、その選択基準が明らかになっていないのが現状であります。
日本血管外科学会では、この現状を鑑み、破裂性腹部大動脈瘤研究委員会を立ち上げ、日本ステントグラフト実施基準管理委員会と共同して、破裂性腹部大動脈瘤に対する治療内容をデータベースに登録させていただく全国多施設臨床研究を実施し、詳細な診察記録や手術内容、手術後経過から、正確な情報に基づいた2つの方法の治療成績の比較を行って、病状に合わせた適切な治療方法の選択基準の元になるデータを確立することを決定し、希望する施設を募って、2018年から研究を開始する運びとなりました。
日本血管外科学会は、正確な情報を国民に提供し、かつ、その情報をもとに適切な治療指針を造り上げてゆくことが学会の使命であると考え、このような全国規模の臨床研究を企画して、破裂性腹部大動脈瘤の適正治療と成績向上に資する所存でございます。
日本血管外科学会破裂AAA研究委員会 委員長 東 信良
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